最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)660号 判決 1960年11月29日
松山市大街道二丁目一二番地
上告人
ラジウム温泉株式会社
右代表者代表取締役
森岡品吉
右訴訟代理人弁護士
泉田一
同市堀之内
被上告人
松山税務署長
右当事者間の法人税更正決定取消請求事件について、高松高等裁判所が昭和三四年四月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
論旨は、理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)
(参考)
○昭和三四年(オ)第六六〇号
上告人 ラジウム温泉株式会社
被上告人 松山税務署長
上告代理人泉田一の上告理由
第一点 原判決文は不備である。
原判決理由によれば
「当裁判所のここに示べき判断は次に附加するものを除くほかすべて原判決理由と同一であるから、これをここに引用する」
とあるがどう引用するのか其の引用文を挙けていない。
これは不備な判決であると思料する。
第二点 原判決は民訴第一八五条の規定の精神に違反すると思料する。
1. 判決裁判官の自由心証による事は民訴第一八五条に規定するところであるが、併し其の判決は証拠により証拠に基づいて為さるべきものてある事も同条規定の趣旨から考へられるところである。
2. 然るに原判決に於ては
(イ) 「成立に争いのない甲第五号証の二及び当審証人西村賢治同十質(第一二回)同森岡イワヨ、同永田嘉太雄、控訴人代表森岡品吉の各供述には控訴人主張に副うものがあるけれども」
(ロ) 「当審証人宮田泰同武智栖碩同桧垣早美の各証言に照し容易に信用し難いし」
(ハ) 「当審証人岩崎武則同栗田武夫の各証言、当審鑑定人岡田房一の鑑定の結果は未だ控訴人の主張を認めて上記認定を覆すに足るものてはない」
と簡単に片つけている。
何故に(イ)の証人の証言が(ロ)の証人の証言より信用が出来ないのか、又(ハ)の証人の証言鑑定の結果かどうして(ロ)の証言の証言に対して信用が出来ないかの理由については専ら裁判官の心証で逃げている。
3. 併し本件(イ)の証人の中西村賢治同千葉質の両名は本件問題の地代家賃を払つた当人であり、亘つ第一、二審に亘つて数回同様の証言をして居り裁判官の面前で宣誓の上している。然るに右両証人が自己の所得を調べに来られた際、納税額を少なくし度い意図のため――その為には支出を多くする必要があり、税務官吏に嘘を言つたのであるが――その時調べをした税務官吏の(ロ)の証人の証言よりもどうして信用が出来ないか、其の証拠力に対する判断理由が何も示されていない。
又(ハ)の栗田証人は上告人が昭和二八年千葉に本件家屋を貸す以前の貸主であり、其の当時千葉に何程で貸していたかの証人であり、岡田鑑定人の鑑定は、昭和二八、九年度に於ける相当賃料の鑑定であり、何れから判断しても僅かに五坪足らずのバラック建の賃料としては被上告人の更正決定は不当なものである事は明白であるに関らず、(ロ)の証人の証言を覆すに足りぬと何等の理由も示さず片づけている。
4. 判決は裁判官の自由心証によるとは云え、これではあまりに独断的な判断であり、判決理由であり上告人としては納得が出来ない。
証拠に対する判断の理由を示すべきであると思料する。
控訴審に於てあれ程の証人を調べ、又鑑定までして上告人は其の主張の立証をしているのに、上告人の申請した証人や鑑定人の鑑定や証言は凡て信用が出来ないという一言で其の理由も示さず片づけている原判決は民訴第一八五条の規定の精神に違反する判決であると思料する。
以上